腎泌尿器科

腎泌尿器科とは

腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道の疾患について診断治療をする部門です。
血液検査で腎臓に関連する数値に異常が見られたり、尿の回数、色、量の異常を訴えて来られる飼い主様が多くいらっしゃいます。
すべての症状が治療の対象になるわけではありませんが、異常を早期に発見することによってQOL(クオリティオブライフ:生活の質)をいい状態で長く続けることができます。
そのためには系統的な診断手順を踏むことが大切です。
動物たちは痛みを訴えることも話すこともしません。ぜひとも声なき声に気づいていただけたらと思います。

腎泌尿器科によくみられる症状

生活によって尿色の変化が起こることはご理解いただけると思います。
血尿、尿が薄い、血が混ざるなど尿の性状の変化に気づき来院される患者様は少なくありません。
まず最初に尿検査を行い、尿は血液を濾したものですので体内で起こっている現象によって影響を受けます。
溶血性貧血(赤血球が破壊される)や肝胆道膵臓疾患では、赤色もしくは山吹色のような尿が認められます。
腎臓、尿管、前立腺、子宮、膀胱、尿道、膣に存在する異常は尿色に変化をもたらします。
まず尿検査を行い、尿の回数が多い、気張るのに出ないなどの残尿感があるとかの症状から原因を探っていきます。

レントゲンや超音波検査、CT検査、膀胱鏡、尿道鏡などの検査が必要になってくる場合があります。
一般状態や侵襲(体へのダメージ)の程度、費用等を考慮しながら、それぞれにあった検査及び治療法を決めていきます。

飲水量が多く、薄めの尿を多量にする場合は糖尿病やホルモンの異常や慢性腎不全を疑います。
水分や塩分の多く含む食事や暑い環境の場合などは飲水の増加に伴って尿量が増加します。身体一般検査、血液検査や尿検査総合的を実施し、総合的に診断していきます。
少量頻回の尿をする場合は、通常、膀胱か尿道に病変が存在することが多く、よく見るものでは発情(生理)や結石に関連した尿道炎、膀胱炎がありますが、根底に膀胱腫瘍や尿道腫瘍が隠れていることがあります。
超音波検査は診断精度も高く、低侵襲であるため、できるだけ早く行うことをおすすめします。
繰り返す場合や治らない場合は、尿道などに腫瘍が隠れていることがあるため、麻酔が必要な尿道鏡、膀胱鏡やCT検査などで原因を究明します。
通常、尿が出ている状態では食欲がなくなったりはあまりしません。
尿道結石や腫瘍で尿の出ない尿道閉塞の状態に陥ると、排尿時に痛みから「うぉー」と唸り声をあげたり、食欲の低下が認められます。
お腹を触ってみて下腹部に硬い塊が触れたら要注意です。
尿が出なくなってから48時間で死に至ると言われており、残尿感があるのか閉塞しているかを鑑別することは重要です。
このような場合は、なるべく早く病院に行きましょう。

①腎後性腎障害

尿路に閉塞が起こることによる腎不全を腎後性腎不全といいます。
尿路閉塞は尿管、膀胱、前立腺、子宮、尿道、骨盤腔内の病変などいろいろな場合に起こります。
尿路閉塞が起こっている場合に、多量の輸液療法を行うと心臓や肺に負担がかかってしまい、取り返しのつかないことになりかねません。
特に最近多くみかける尿管結石は、超音波検査でも水腎症(腎盂の拡張)が必ずしも明らかでなく、レントゲンでは診断が難しく、高性能のCT検査でなければ認識できず、腎性腎障害として来院されるケースが少なくありません。
人であれば痛みでのたうちまわると思うのですが、動物はそういう素振りを見せないので要注意です。
尿管であれ、尿道であれ、尿路閉塞が認められたなら、輸液療法の前に尿道カテーテルや尿管結石摘出術、ステント術、SUBシステムなどの手術によって尿の通り道を確保することが最優先です。
前述したとおり、尿道閉塞がおこってしまうと48時間以内に死に至ると言われていますので要注意です。
処置までの時間が遅れると腎性腎障害に移行します。
早急な処置が必要ですので皆さん覚えておいてください。

②腎前性腎障害

腎臓はとても自己犠牲の強い臓器なため、激しい脱水や心拍出量の低下などが起こると心臓や脳に優先的に血液を譲ろうとします。
その結果、腎臓に関連する数値が悪化します。
治療が早ければ、適切な輸液療法を行うことで速やかに数値は改善します。
このような場合を腎前性の腎不全といいます。
嘔吐や下痢などの激しい消化器症状や、子宮蓄膿症などの感染症や熱射病のように激しく水分を喪失してしまう状況で起こります。
アジソン病(副腎皮質機能低下症)などのホルモンの病気で起こることもあります。
尿路閉塞がないことが前提ですが、速やかに適切な輸液療法が必要です。
十分な輸液をする事によって速やかに改善し、再発がないなら腎前性腎不全だったといえるでしょう。
再発があるなら脱水を引き起こす何らかの原因があるはずです。
治療までの時間が長いと腎性腎障害に移行します。

③腎性腎障害

薬物(非ステロイド系消炎剤やある種の抗生物質、抗がん剤など)や毒物(不凍液エチレングリコールやパラコート)、体内の物質であればミオグロビンやヘモグロビンなどにより急性尿細管壊死が起こります。
DIC(播種性血管内凝固)でも起こります。
犬だと不凍液などの薬物摂取や、アウトドア派に多いレプトスピラ症が一般的です。
猫ではユリ中毒がもっとも多いです。
ユリ中毒は残念ながら精一杯治療してもほとんど助からないため、猫のいる家にユリは絶対飾らないことをおすすめします。
血液中のカリウム濃度が上昇すると、心不全をおこし死に至るので、血液透析や腹膜透析などの処置を早急に行わなければなりません。
中毒や腎炎などで急性腎障害を起こした場合や、慢性腎臓病で急性に重篤に悪化した場合、一時的に透析装置を用いて、腎臓の代わりに血液中の老廃物や毒素を減らすことができます。
しかし、本当に血液透析が必要な猫たちはそれほど多くありません。
残念ながら正しく診断されず、輸液療法を実施されて余計にひどくなっているケースが少なくありません。

前述の腎障害の原因により慢性経過に移行したものを慢性腎臓病といいます。
腎臓が障害を受けていても動物たちは声を上げないためなかなか気づかれず、急に悪くなったと来院される患者様は少なくありません。
明らかな症状の出ていないうちにできるだけ早く発見してなるべく進行を遅らせることが必要です。
当院では、定期的な尿検査や血液検査(腎臓マーカーSDMAなど)をおこない、早期発見に努めています。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease)は、基本的に治る病気でなく、維持をしていく病気であることをご理解いただきたいと思います。
血液検査・尿検査・超音波検査などを総合的に判断した結果、慢性腎臓病との診断に至ればその重症度をIRISのガイドラインに沿って分類(IRIS分類)し、食事療法や内服薬、定期的な輸液療法などの治療方針を決めていきます。
IRISとは、犬と猫の腎臓病に関する理解を深めるために設立された国際的な研究会です。

参照URL:http://iris-kidney.com

当院の考え方・治療方針

当院は動物専用の血液透析装置「NCU-A」を所有しているため、獣医師の先生方からのご紹介で来院される方も多くいらっしゃいます。
しかし、紹介されてくるケースのほとんどが血液透析や腹膜透析の必要な腎性腎障害でなく、尿管結石による腎後性腎障害であったことを多く経験してきました。
尿管結石による閉塞の診断はレントゲンだけではとても困難です。
当院では無麻酔でCTを撮影し尿管結石の存在の有無を確認します。
また、腎性腎障害の治療として施される過剰輸液は肺水腫や胸水を起こし、手術のリスクが高まります。

ご紹介いただく先生は大変ありがたいのですが、上記を考慮してくださると助かります。

結石などで尿管が閉塞してしまい手術で取り除くのが困難な場合、尿管の代わりをしてくれる管を体の中に埋め込む手術です。
SUBシステム(皮下尿管バイパスシステム)は再閉塞した場合も中に液体を通すことで再疎通させることができます。

猫のよくある症例

ここ最近とても多いのは猫の尿管結石です。
猫の尿管結石はたいへん気づかれにくい病気です。
人であればとんでもない痛みで転げ回るくらいと聞いていますが、動物たちは片方の尿管がつまっててもよっぽどの観察眼を持つ飼い主様でないとその異常に気づく事はまずありません。
そのまま気づかれないと尿管の詰まった腎臓は結果的に萎縮し、反対側の尿管が詰まったときに明らかな症状を呈するようになって来院されることになります。
その中で、これまではストラバイト結石(ストルバイト結石)の症例が多かったですが、ストラバイト結石(ストルバイト結石)は、ウェットフードなどの食事で溶かすことのできるため、最近では食事で溶かすことのできないシュウ酸カルシウム結石が多くなりました。
予防方法として、いつでも水が飲めるようにすることや、缶詰フードや水分摂取を促すサプリメントでしっかりと水分を取らせることは重要です。