血液免疫科
血液免疫科とは
血液の中にある赤血球、白血球、血小板などの成分の異常に関する疾患を治療する診療科です。
血液検査で血球の異常を認めた場合、血液そのもので問題を起こしているケースよりむしろ、他の疾患に伴って続発性に問題を起こす場合が多いです。
例えば貧血が見つかった場合、赤血球が破壊されているのか、出血などにより喪失しているのか、あるいは産生が低下しているのかということを見極めなければなりません。
これらの違いによって選択すべき治療方法は大きく異なります。
血液疾患による貧血であれば、内科管理が主な治療方針になりますが、肝臓や脾臓からの出血によって貧血している場合は早急な外科手術が必要となる場合があります。
このように治療法が大きく異なることから、その鑑別は慎重に行う必要がありますが、その一方で迅速に診断し治療を行わなければ手遅れになり命を落としてしまう可能性があります。
血液免疫科のよくある症例
- 赤血球が破壊されていないか
- 外部へ喪失していないか
- 産生が低下していないか
赤血球が破壊されることを溶血といい、免疫介在性溶血性貧血(IMHA)、ダニから感染するバベシア症、タマネギ中毒などが疑われます。
溶血が起こると赤褐色の血色素尿や、眼球結膜などで黄疸が認められることもあります。
いずれの場合も症状が進行することで死亡する可能性が高いため迅速な治療が必要となります。
本来、外敵から自己を防衛するための免疫系に異常をきたし、自己の赤血球を敵と認識して破壊してしまう病気です。
原因が特定できない原発性と、腫瘍や感染、薬物によって起こる二次性に分けられ、二次性の場合は原因疾患の治療も同時に行います。
重篤な場合は治療に関わらず1~2週間で死亡してしまうこともあります。
治療はステロイド剤や免疫抑制剤が中心となりますが、貧血が重度である場合や治療効果が得られる前に病気が進行する場合は免疫グロブリン製剤の投与や輸血を行って一時的な改善を行います。
十分に改善した後もその状態を維持するために、基本的に日常的な投薬が必要となります。
マダニの吸血によって赤血球に感染する寄生虫で、貧血だけでなく血小板減少を伴うことも少なくありません。
抗生剤や駆虫薬による治療を行いますが、特効薬といわれる薬は無く、症状が治まっても身体の中から完全に消えるわけではないため再発の可能性があります。
マダニ予防をすることで感染を防ぐことができるため、日頃からの予防薬の使用を推奨しています。
犬や猫にとってタマネギなどのネギ類は毒であることはご存じのことかと思います。
ネギに含まれるチオ硫酸化合物によって溶血が引き起こされ、これを直接止める治療法はありません。
そのため毒物が代謝されるのを待つしかなく、命を脅かす状態である場合は輸血や点滴治療でしのぐことになります。
摂取してすぐであれば催吐処置をして吐かせることで吸収を防ぐことができるため、早めの来院をおすすめします。
産生とは細胞やエネルギーを作り出すことを指します。
赤血球は骨髄で産生されており、骨髄の異常によって産生低下を認めます。
しかし、その発生頻度は比較的稀であり、大半は腎不全、甲状腺機能低下症やアジソン病などの内分泌疾患、その他の慢性疾患などによる二次的な貧血です。
骨髄を調べるためには全身麻酔下で行う骨髄検査が必要ですが、まずは他の疾患がないか十分に調べ原因疾患に対する治療が必要となります。
血小板は出血した際に血管壁に集まり、止血を行う血球です。
血小板が減少することで血が止まりにくくなり、様々な部位で出血を引き起こし致死的な状況に陥ります。
血液疾患として、血小板が減少している場合は免疫介在性血小板減少症という血小板が破壊される疾患を疑われることがあります。
しかし血小板が減少する原因としては、血小板が破壊されるだけでなく、出血や血栓症などによる消費亢進、骨髄からの産生が低下しているという状況も考えられます。
また、巨大血小板や採血中の血液凝固などにより、本来正常な血小板数が検査の数値には低く出てしまうといったケースも珍しくありません。
これらを明確にせずに診断すると、治療をしても改善しないどころか逆に悪化させてしまう恐れがあります。
そのため血小板減少があった場合は血液検査だけでなく、超音波検査やレントゲン検査を始めとした種々の検査で全身の状態を把握し、治療すべき疾患を正確に知ることが必要となります。
免疫介在性溶血性貧血と同様に免疫系の異常により血小板が破壊されてしまう病気です。
原因が特定できない原発性と、腫瘍や薬剤、感染などによる二次性に分けられます。
貧血と同時に発症するケースもあり、これはエバンス症候群と言います。
血小板が少なくなっただけでは無症状で、出血を伴った際に初めて異常に気付きます。そのため元気な子の健康診断で行った血液検査で、血小板減少に気付くケースも少なくありません。
症状としては皮膚の紫斑(内出血)、血便、血尿、鼻出血などを訴えて来院される場合が多くあります。
この病気の死亡率は約30%と報告があり、非常に危険な疾患であるため迅速に治療を開始する必要があります。
治療法としては免疫介在性溶血性貧血の治療とほぼ同様で、過剰に起こっている免疫反応をステロイド剤や免疫抑制剤、免疫グロブリン製剤によって抑え込みます。
予兆なく発症してしまう病気ですが、普段から動物たちに目を向け、触れ合い、少しでも早く発見してあげるようにして下さい。
当院の考え方・治療方針
当院では血液の異常が見つかった場合、一般的な血液検査の他に凝固系検査、超音波検査、レントゲン検査、CT検査などで全身の状態を確認し迅速に診断して、治療法を決定するようにしています。
また治療に輸血が必要となる場合には、ドッグスクールや有志の患者様の協力を仰ぎ、迅速に輸血を実施できるように体制を整えています。
自己免疫性疾患による血液異常の治療はステロイド剤や免疫抑制剤などの投薬が主となりますが、生涯にわたる投薬が必要となる場合がほとんどです。
そのため投薬が困難であったり、経済面から飼い主様へも負担があると言えます。
当院では、これらの治療が必要である場合、ご家族様に対してしっかりと病気の説明をさせていただきます。
ただ治療をするだけでなく、それぞれのご家族様のご意向も確認して、動物たちが最も幸せに過ごせるような治療を選択し、医療プランを立てるようにしています。
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