内分泌科

内分泌科とは

動物たちの体内で分泌されるホルモンの異常について診察する部門です。
分泌されるホルモンは、生体の発育・代謝・生殖など、生命の維持に重要な役割があります。
複数の器官が関与しており複雑な病態になることもあり、その異常は生命に影響を及ぼすこともあります。
内分泌疾患の多くは、ホルモンの過剰(機能亢進)もしくは不足(機能低下)が原因であり、それぞれ異なる特徴的な臨床症状を発現します。
当院では、それらの症状をよく認識することや該当する疾患と病態を予測して検査を進めることを心掛けています。
検査には、血液検査、尿検査、ホルモン測定、画像診断(レントゲン、超音波、CT検査)があり、こちらの結果も特徴的な異常所見を示すことから診断を確定していきます。

内分泌科のよくある症例

内分泌科のよくある疾患として代表的なものは、甲状腺疾患(犬では機能低下症、猫では機能亢進症)、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、肝臓内分泌不全として糖尿病が高い頻度で見られます。

犬の甲状腺機能低下症では、皮膚症状(脱毛、色素沈着、肥厚、再発性膿皮症、外耳炎など)、体重増加(食餌量が少ないもしくは普通にも関わらず痩せない)、低体温、無気力(おとなしい、運動量の減少)などの症状があります。
ほとんどが自己免疫疾患のリンパ球性甲状腺炎と特発性甲状腺萎縮による原発性甲状腺機能低下症です。
血液検査は、コレステロール及び中性脂肪の増加、軽度の貧血、肝臓酵素値の上昇が認められやすく、その他の疾患を除外するためにもまず必要な検査となります。さらに、甲状腺ホルモン値を測定し、機能低下症と診断されれば、甲状腺ホルモン剤の投薬を開始します。その後は、定期的にホルモン測定を行い、結果に基づいて投薬量の調節を行っています。

甲状腺機能亢進症

猫の甲状腺機能亢進症では、体重減少と食欲亢進(よく食べるのに太らない)、多飲多尿がよくみられる症状ですが、食欲不振、嘔吐、下痢、元気消失といった症状がみられることもあります。
老齢猫に多く、98%以上に甲状腺の腺腫様腫大、過形成が認められると言われています。
血液検査では肝臓酵素値の上昇がみられ、甲状腺ホルモン値を測定して確定診断を行います。
治療は、抗甲状腺ホルモン薬の投薬を行います。
定期的なホルモン測定による投薬量の調節や腎不全を併発する症例も多いことから、血液検査で腎機能のモニター、白血球減少症が抗甲状腺ホルモン薬の長期投与による副作用として報告されていることから、完全血球計算を必ず行っています。

犬の副腎皮質機能亢進症は、下垂体腫瘍(巨大腺腫または微小腺腫)による下垂体性副腎皮質機能亢進症と副腎腫瘍による副腎皮質機能亢進症に分けられます。
そのほとんどが、多飲多尿、多食、腹部膨満、皮膚症状(脱毛、菲薄化、感染症)、パンティング、筋力低下といった特徴的症状があります。
血液検査では、肝臓酵素値、コレステロール、中性脂肪の上昇がみられ、確定診断にはACTH刺激試験を行います。
ACTHとは、副腎皮質刺激ホルモンのことで、本来脳の下垂体から分泌され、副腎皮質からのコルチゾールというホルモン分泌を刺激しています。
この試験は、合成ACTH製剤を筋肉内投与し、投与前及び投与後1~2時間後の血中コルチゾール濃度を測定するものです。
副腎皮質から分泌されるコルチゾールは、様々なストレス(興奮、不安、外傷など)による一過性の分泌亢進や日内変動があるため、任意の時点で測定しても診断意義は少ないと言われています。
ACTH刺激試験では、ストレスや他の疾患の影響を受けにくいとされており、診断には必須の検査となります。
また腹部超音波検査で、両側副腎の大きさ、対称性腫大の有無、形態の変化を確認、副腎腫瘍が疑わしい場合は周囲組織への浸潤の有無を評価しています。
下垂体性との診断が得られると、トリロスタンという副腎皮質ホルモンの合成過程を阻害する薬を開始、症状のコントロールに努めています。
副腎腫瘍の場合は、CT検査が転移の有無、手術計画を立てる上で有効です。
トリロスタンの投薬開始後は、効果が現れ飲水量の減少があるか、逆に薬が効きすぎて嘔吐やふらつきなど機能低下を疑うような症状がでていないかを自宅でよく観察していただく必要があります。
この疾患は膵炎、糖尿病、血栓塞栓症、感染症といった合併症を引き起こしやすい病態であることから、定期的に来院していただき、身体一般検査、血液検査を行っています。

犬でよくみられる症状ですが、猫では非常に稀な症状です。
アジソンクリーゼと言われるショック、虚脱、低血圧、低体温といった非常に危険な状態で来院されることもあれば、元気消失、食欲不振、嘔吐、下痢といった非特異的症状を訴えが気になり来院されることもあります。
血液検査で低ナトリウム血症、高カリウム血症、低血糖、高窒素血症が典型的な異常ですが、電解質異常を伴わない非定型副腎皮質機能低下症もあり、診断はACTH刺激試験で血中コルチゾールが上昇しないことで確定します。
治療は、副腎から分泌されるグルココルチコイドとしてプレドニゾロンの内服、ミネラルコルチコイドとしてフルドロコルチゾンの内服またはDOCP(ピバル酸デゾキシコルチゾン)の25日毎の注射があります。
治療は生涯続けることになりますが、治療を継続することで動物が本来の寿命を全うすることができると言われています。

犬猫ともによくみられる疾患で、近年増加傾向にあります。
犬の多くは膵島の空胞変性に起因してインスリン分泌が絶対的に不足して糖尿病を発症すると言われていますが、膵炎、副腎皮質機能亢進症、雌犬の発情後プロゲステロン血症に伴う続発性糖尿病もみられることがあります。
未避妊の雌犬で糖尿病を発症しインスリン治療が必要となった場合は、発情期に血糖値のコントロールが出来なくなることから必ず避妊手術をすることを推奨しています。
症状は、多飲多尿、食欲亢進、経過が長くなると体重減少、白内障も認められます。
血液検査では高血糖、尿検査で尿糖陽性であれば、糖尿病との診断になります。
猫の場合は、慢性膵炎に起因するものが多く、またヒトの2型糖尿病に類似して肥満がインスリン抵抗性を引き起こし血糖値上昇につながることもあると言われています。
主症状は、多飲多尿、食欲増加、体重減少で、高血糖と尿糖陽性が確認できれば診断を行います。
しかし、猫はストレス性に一過性に血糖値が上昇することがあるため、糖化アルブミンやフルクトサミンといった糖化蛋白を測定することで、診断を確定させています。
糖化蛋白は過去1~2週間前の血糖変動を反映すると言われ、糖尿病の診断だけでなく、インスリン治療が開始された後、血糖値が良好にコントロールできているかどうかの指標にもなります。
治療は、犬猫とも食餌療法とインスリン皮下注射(1日1回~2回)が基本となります。
食餌療法は、低炭水化物、高線維、低脂肪食といった糖尿病用処方食を体重に合わせて必要カロリー数を算出して与えていただきます。
必要なインスリンの単位数は、推奨投与量から開始、院内で半日2~3時間おきに血糖値を測定して、おおよその日内変動を把握し、適切な単位数を決定しています。
しかし、「院内と家では、動物の活動量や食餌量・食餌時間が異なる」「処方食を全く食べない」といったこともよくあります。
実際には動物が食べる食餌で、理想的な血糖値からは少し外れていても低血糖にならず異常な高血糖にもならず、飼い主様と動物双方の生活の質が保たれることを目標に治療を行っています。