消化器科

消化器科とは

食道・胃・小腸・大腸の疾患について、診断治療する部門でその症状のほとんどは嘔吐や下痢、血便、食欲不振などの消化器症状です。
犬や猫の消化器症状は、健康な状態で認めることも珍しくありません。
しかし、もし何らかの疾患が潜んでいる場合には、数日のうちに重篤化してしまう恐れもあります。
また、消化器以外の多くの疾患でも認めることが多い症状であるため、全身のスクリーニング検査が必要となります。
嘔吐や下痢の症状は、胃腸単体の異常だけでなく、膵胆肝疾患、腎泌尿器疾患、内分泌疾患、腫瘍性疾患など非常に幅広い分野で認められる症状です。
中には緊急治療が必要となる病気もあり、特に元気、食欲低下や他の変化もある場合にはできるだけ早く受診していただくことをおすすめします。

消化器科のよくある症例

犬や猫は、人間に比べて嘔吐することの多い動物です。
例えば、空腹時に黄色い液体を嘔吐することがよくありますが、この液体の正体は胆汁であり、十二指腸に排出された胆汁が胃に逆流しその刺激によって嘔吐が起こります。
他にも食餌過多や車酔い、猫の場合は毛玉を吐くために嘔吐することがあります。
これらは病気ではないため、必ずしも治療を必要としません。
しかし、嘔吐が続いたり、食欲低下が見られたりするなど他の症状も出る場合には、何らかの疾患が隠れている可能性があります。

嘔吐と混同されやすいのが吐出という症状です。
食べたものが胃まで到達せず、食道内に残ることで未消化物を吐き出します。
嘔吐は吐く前にお腹が波打ってウグウグしてから吐き出すのに対し、吐出は食べた直後に突然予兆なく吐き出します。
この場合は、巨大食道症などの食道疾患を疑います。

咳の症状がひどい場合、えずきや吐物を認めることがあります。
特に猫の咳は嘔吐と間違われて来院されるケースも珍しくありません。
このような違いを知っておくことで病気の早期診断にもつながるため、吐き出すときの様子をよく観察してあげて下さい。

若齢から老齢まで幅広く認められる胃腸炎です。
消化管内の腸内細菌叢が乱れることで発生し、下痢を伴うことも少なくありません。
この場合は、一時的な通院治療で改善することがほとんどですが、膵炎や胆嚢炎など他の基礎疾患によっても同じような症状が出るため注意が必要です。

動物たちは時に思いもよらないものを飲み込んでしまう場合があります。
多いのは綿やタオルなどの繊維、プラスチック、噛んだクロックスの破片、竹串、縫い針、目薬のキャップなど、挙げればキリがありません。
これらが消化管を通過できずに、閉塞してしまうと頻回の嘔吐を認めます。
そのまま時間が経過すると、閉塞部の壊死や破裂によって命を落としてしまう可能性もあるため緊急の開腹手術が必要となります。
飲み込んだ直後であれば、催吐処置や内視鏡をすぐに実施し取り出すことができるため、異物を飲みこんでしまった場合は、すぐに受診するようにしてください。

レトリーバー種やシェパード、グレートデンなどの大型犬に多く、小型犬でもミニチュアダックスフントで認められることがあります。
胃内ガス貯留により、お腹が膨れるまたはよだれの量が増えるなどの症状を認め、食餌後の運動で発生しやすいと言われますが、そうでなくても発症します。
胃がねじれて拡張することで消化管閉塞を生じ、拡張した胃が門脈や後大静脈を圧迫することで血行障害や不整脈、ショックを引き起こします。
時間が経過すれば、血行障害による胃や脾臓の壊死も認められます。
死亡する可能性が高いため、直ちに穿刺や内視鏡による胃の減圧、開腹手術による胃の整復、脾臓の壊死がある場合は脾臓摘出を行います。
また再発を防ぐために胃と腹壁を縫合する胃-腹壁固定を同時に行います。
死亡リスクがあり、その対応も緊急で行う必要があるため、予防策としてあらかじめ胃-腹壁固定を推奨することがあります。
当院では、予防的な手術の場合、腹腔鏡補助下で実施するため通常の開腹手術より低侵襲で手術を行うことができるため、ぜひ一度ご相談ください。

下痢や軟便は動物たちの異常としてよく目にする変化と言えるでしょう。
環境変化や食餌の変更などでもよく見られるため、必ずしも病気が原因であるわけではありません。
特に若齢時では、消化機能が未成熟なことも多いため一過性の下痢を見る機会は多いかと思います。
反対に、高齢になってから出始める下痢や何日も続くような場合は、病気が潜んでいることが多く、十分な検査が必要となります。
下痢の原因として、最初に寄生虫感染を考えなければなりません。
子犬や子猫、保護された野良猫で特に多く見かけられ、中には無症状の場合もあります。


診断について


主に顕微鏡で便を観察し、虫体や虫卵の有無を確認するか、寄生虫の種類によっては検査キットを使って診断を行います。
一度の検便では見つからない場合もあるため、改善がない場合は繰り返し検査する必要があります。 寄生虫が認められず、食欲や元気の低下がなければ、大半は「大腸炎」という一過性の下痢として治療します。
内服薬による治療によって、数日程で改善することがほとんどです。
改善しない場合や繰り返してしまう場合には、食餌性の問題や自己免疫性疾患、場合によっては腫瘍性疾患が関連している場合が考えられます。
食餌性の場合、繊維反応性腸症や食餌アレルギーといった疾患が挙げられ、これらの診断は基本的に療法食によって症状が改善するかどうかで判断します。
アレルギーは意外と見過ごされることも多く、療法食に変えても他の物を食べたりすることで効果判定ができないケースもあるため、診断するまでは厳密な食事管理が必要となります。

リンパ管拡張症や炎症性腸疾患があり、下痢だけでなく嘔吐や食欲不振、腹水を伴う場合もあれば、無症状で気付かれない場合も少なくありません。
無症状の場合は、検診での血液検査で低アルブミン血症が低いことから認識されることが多いように思います。
これらの疾患は、最終的に消化管壁の一部を生検し、病理検査によって診断します。
検査は、麻酔をかけて実施する必要がありますが、自己免疫性疾患のコントロールには生涯にわたる薬物治療が必要となることも多いため、確実な診断が必要と言えます。